卯木─宇津木橋 - Network2010

沢井鈴一の「俗名でたどる名古屋の町」豊竹小路から地獄谷

卯木─宇津木橋

ものは百年使用していると魂がこもり、霊がつくという。樹木も、長寿の木には霊がこもっている。
樹霊にまつわる伝記は数多く残っている。秀吉が朝鮮征伐のために白山神社の神木を切らせたら、木から血がしたたり落ちてきて、切るのを中止したのは有名な話だ。
都市化がすすむにつれ、樹木のたたりなどは迷信であり、樹霊などという言葉は死語になってしまったのだろうか。心より金の時代には、信長必勝祈願の楠とも、弘法大師お手植えの楠とも言われている神木を守ることより、木を切り土地を金に替えることの方が魅力的なのであろうか。神木は、一度切ってしまったら甦らすことはできない。狭い土地の代用地はどこにでもあると思うが、どうであろうか。

宇津木橋の欄干には卯の花のレリーフが飾られている宇津木橋の欄干には卯の花のレリーフが飾られている
前津の地にも樹齢を経た卯木の木があり、江戸の時代より多くの人々の崇拝をうけていた。
『前津旧事誌』には、この卯木のことを次のように記している。

卯津木は潅木にして高さ一丈計り。根部より細枝叢生して初夏の交白花を着く。里人の話に昔より大きくも小さくもならずといへど、余程年所をへたる老木也。いつの頃なりけん。此家の主あまりに小枝の繁茂せるよりこれを剪定せしに、その夜より俄然歯痛を起し、百方手当てをなせども効なし。よってさる易者に占はしめしに、こはさきに枝を切りたる卯津木の咎なりといふに、驚きて直ちに卯津木の周りに注連を張り、玉垣をめぐらし祭事を営みしに、忽ちにして齒の痛み治しけるより、以来里人の歯痛あるもの茲に詣りて治癒を祈願するに至る。本復の上は籾一升を供へ礼謝をなすといへり。

小枝を剪定しただけでも、たたりがあり、齒が痛くなる。この卯木の伝説に思いをめぐらすだけでも樹霊を感ずることができる。『金鱗九十九之塵』『尾張名陽図会』にも同じ話が載っている。
卯木の伝説は忘れ去られてしまったが、新堀川に架けられている「宇津木橋」の名前により、名木のあった地であることを知ることができる。

連載は毎週金曜日更新です!

【新連載】沢井鈴一の「名古屋の町探索紀行」は、毎週金曜日に1話ずつ掲載していきます。

沢井鈴一氏関連情報

『名古屋の街道をゆく』
定価1500円 好評発売中!

『名古屋の街道をゆく』好評発売中!

名古屋の町を形づくってきた東海道・佐屋街道・柳街道・美濃路・上街道・下街道・飯田街道という七つの街道の歴史、成り立ち、歴史的できごと、そして今も古い息吹きが残る街道周辺の文化財を紹介。
読んで興味津々、町歩きの伴侶となるこの一冊によって名古屋の街道を再発見しながら楽しめます。探索用カラー地図付。

■著者=沢井鈴一(堀川文化を伝える会 顧問)
■発行=堀川文化を伝える会
■体裁=A5判並製、カラー口絵付240頁、地図・古写真等多数収録
■価格=1500円
■内容=東海道・佐屋街道・柳街道・美濃路・上街道・下街道・飯田街道 ほか

取扱書店一覧(名古屋市内)
・ ちくさ正文館(広小路通り 千種駅東)
・ 正文館書店本店(東区東片端)
・ 熱田泰文堂(名鉄神宮前駅前 JR熱田駅前)
・ 三松堂書店(上前津交差点南西角)
・ 早川屋書店(大須ふれあい広場前)
・ 岡田書店(北区味鋺)
・ 三洋堂書店いりなか本店
・ 新開橋店(瑞穂区 新堀川沿い)
・ 鳥居松店(国道19号沿い春日井高校東)
・ ジュンク堂 名古屋店  
・ 名古屋ロフト店
・ 丸善 名古屋栄店
・ 三省堂 名古屋高島屋店
・ 中日書店 中日ビル3階
・ ブックショップ「マイタウン」(中村区 新幹線高架下)
・ 鎌倉書房 サカエチカ店

沢井 鈴一(さわい すずいち)
沢井鈴一1940年 愛知県春日井市生まれ。明治大学文学部卒業後、市邨学園高等学校で国語科を教え、2000年3月に定年退職。名古屋市中区、北区等の生涯学習センター講師を務めるかたわら、堀川文化探索隊代表として長年にわたり堀川文化の地を調査・探索し数多の企画展を実現。著書に『浮世絵は愉しい』『伝えたい-ときめきを共有する教育』『堀川端ものがたりの散歩みち』『花の名古屋の碁盤割』『名古屋本町通りものがたり』など多数。

Webサイト:開府400年・名古屋の歴史と文化