願かけ七本松─七本松神社 - Network2010

沢井鈴一の「俗名でたどる名古屋の町」豊竹小路から地獄谷

願かけ七本松─七本松神社

七本松神社, まわりに松の木は見あたらない七本松神社, まわりに松の木は見あたらない
七本松神社の碑の横には二代目七本松という文字が刻まれている七本松神社の碑の横には二代目七本松という文字が刻まれている七本松神社という小さな神社が鶴舞公園の近くにある。鳥居の傍らに二代目七本松という石碑が建てられている。松の木がどこにあるかと狭い神社の中を見わたしても、それらしい木は見あたらない。
昔、清洲から鳴海に通ずる街道には、何本もの松が植えられていた。松の木の下で休む人、松の木で炎暑を避ける人、街道に松の木はなくてはならないものだった。
前津と御器所との村境にも七本の松の大木があり、旅人を慰めていた。その松も次第に枯れ、天保五年(一八三四)五月には、二本が残るのみとなった。さらに、その二本の松も大正の初めには枯れてしまい、七本松町という町名だけが、かつての七本松の名残りをとどめていた。
『前津旧事誌』は、七本松を次のように紹介している。

天保二年壬寅七月人ありて此七本松に立願をかけしに、奇瑞立所に現れしかば、これを伝へ聞きて以来参詣の客引きも切らず、前津はこれがため時ならぬ賑ひを呈せり。当時の狂歌に、
   七本の松にねがひが叶ふげな
      大池大池と人はどんどと

この記述を参考にして『堀川端 不思議ばなし』に、七本松の奇瑞を物語に仕立てて載せた。
七本松は、前津を代表する景勝の地であった。『金鱗九十九之塵(こんりんつくものちり)』に、横井也有が選んだ「前津七景」が載っている。也有は、七本松を次のように紹介している。

路傍古松とハ世に七本松と呼べり。或ハ相生めきて立るもあり。又ハほと隔りて見るもあり。染ぬしぐれの夕べ。つもる雪の朝、詠ことに勝れたり。草薙の御剣の昔話を追て、もしハこの七ツを以て辛崎の一ツに替んといふ人あれども、我ハさらに思ひかへじ。

世に名高い近江八景の一つ、辛崎の松よりも、前津の七本松の景が勝れていると、也有は絶賛している。
七本松神社に佇んでいると、也有の記述との隔たりに嘆息せざるをえない。

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沢井 鈴一(さわい すずいち)
沢井鈴一1940年 愛知県春日井市生まれ。明治大学文学部卒業後、市邨学園高等学校で国語科を教え、2000年3月に定年退職。名古屋市中区、北区等の生涯学習センター講師を務めるかたわら、堀川文化探索隊代表として長年にわたり堀川文化の地を調査・探索し数多の企画展を実現。著書に『浮世絵は愉しい』『伝えたい-ときめきを共有する教育』『堀川端ものがたりの散歩みち』『花の名古屋の碁盤割』『名古屋本町通りものがたり』など多数。

Webサイト:開府400年・名古屋の歴史と文化