堂裏 - Network2010

沢井鈴一の「俗名でたどる名古屋の町」西大須

堂裏

昭和39年頃伏見通りを背に東向きに立つ大須観音仮本堂と仁王門(その後昭和45年に現在の南向きで再建された)昭和39年頃、伏見通りを背に東向きに立つ大須観音仮本堂と仁王門。その後昭和45年に現在の南向きで再建された。(写真:名古屋都市センター蔵)現在の大須観音は南向きに建てられている。大須観音の入口にあたる仁王門も南向きだ。しかし、仁王門通りは東西の通りである。戦火により焼失するまで、仁王門は東側にあり、大須観音も東向きに建てられていた。

大須は、伏見通りにより東西に分断され、戦前とはすっかり町の様相は変わってしまった。大須観音の裏手は堂裏と呼ばれた。吾妻町は観音堂の裏手にある花町であった。伏見通りの開通とともに、豊岡楼、久本楼など十軒余の遊廓、置屋は通りの下に消えてしまった。大須観音の裏手、吾妻町通りには、二軒の玉ころがし屋が道をはさんで遊客の来るのを待っていた。通りの南側の玉ころがし屋の西隣はタバコ屋、さらにその隣には長寿湯という銭湯があった。その南側にあった宝生座も、伏見通りの下にうずもれてしまった。
今、残っている店は喫茶はやしやだけだ。

東西の吾妻町通りと南北の常盤町通りの交差点の東南の地に女紅場があった東西の吾妻町通りと南北の常盤町通りの交差点の東南の地に女紅場があった(拡大画像:旭廊)吾妻町の通りを、西に向かって歩いてゆくと常盤町の通りに突きあたる。東西の吾妻町通りと南北の常盤町通りの交差点の東南の地に女紅場があった。女紅場は、遊女に勤めの隙に女工になれるように教導をする場として建設されたものだ。
この女紅場で、月に六回、遊女に対して検診が行なわれた。遊女が女紅場に出かける場合も仲居が付き添ってきた。遊女が検診を受ける間、仲居は階下で検診が終わるのを待っていた。検診を受ける場合でも、逃走を防ぐために仲居が監督をしているのであった。

明治四十四年に施行された『娼妓取締規則施行細則』の第八条は次のように定められている。

娼妓ハ前項ノ地域内(稼場所)ニ限リ外出スルコトヲ得。
但道路ニ佇立彷徨若ハ散歩シ又ハ劇場及寄席其ノ他公衆ノ群集スル場所ニ立入ルコトヲ得ス

道路を散歩することもできない。劇場に立ち入ることもできない。検診に出かける時も仲居が見張りとして付き添ってくる。

辛い勤めと自由を奪われた生活、重なってゆく借金。女紅場で病気が見つかった場合については『娼妓取締規則施行規則』第二十条は次のように記す。

娼妓黴毒ニ罹リ又ハ黴毒感染ノ誘因トナルヘキ症状アリト診断セラレタルトキハ三時間以内ニ駆黴院ニ入院スヘシ。但シ第十八条但書ノ場合ニ於テ三時間以内ニ入院スルコト能ハサルトキハ其ノ猶予ヲ警察官署ニ申請スヘシ

病気になれば、三時間以内に入院しなければならない。入院すれば、金もかかる。この世の地獄である。地獄の中で、何人かの遊女が生命を絶ってゆく。大正五年一月から十年一月までに二百九名の遊女が死亡している。この世で恵まれなかった遊女は、覚王山の日泰寺に眠っている。

沢井鈴一氏関連情報

『名古屋の街道をゆく』
定価1500円 好評発売中!

『名古屋の街道をゆく』好評発売中!

名古屋の町を形づくってきた東海道・佐屋街道・柳街道・美濃路・上街道・下街道・飯田街道という七つの街道の歴史、成り立ち、歴史的できごと、そして今も古い息吹きが残る街道周辺の文化財を紹介。
読んで興味津々、町歩きの伴侶となるこの一冊によって名古屋の街道を再発見しながら楽しめます。探索用カラー地図付。

■著者=沢井鈴一(堀川文化を伝える会 顧問)
■発行=堀川文化を伝える会
■体裁=A5判並製、カラー口絵付240頁、地図・古写真等多数収録
■価格=1500円
■内容=東海道・佐屋街道・柳街道・美濃路・上街道・下街道・飯田街道 ほか

取扱書店一覧(名古屋市内)
・ ちくさ正文館(広小路通り 千種駅東)
・ 正文館書店本店(東区東片端)
・ 熱田泰文堂(名鉄神宮前駅前 JR熱田駅前)
・ 三松堂書店(上前津交差点南西角)
・ 早川屋書店(大須ふれあい広場前)
・ 岡田書店(北区味鋺)
・ 三洋堂書店いりなか本店
・ 新開橋店(瑞穂区 新堀川沿い)
・ 鳥居松店(国道19号沿い春日井高校東)
・ ジュンク堂 名古屋店  
・ 名古屋ロフト店
・ 丸善 名古屋栄店
・ 三省堂 名古屋高島屋店
・ 中日書店 中日ビル3階
・ ブックショップ「マイタウン」(中村区 新幹線高架下)
・ 鎌倉書房 サカエチカ店

沢井 鈴一(さわい すずいち)
沢井鈴一1940年 愛知県春日井市生まれ。明治大学文学部卒業後、市邨学園高等学校で国語科を教え、2000年3月に定年退職。名古屋市中区、北区等の生涯学習センター講師を務めるかたわら、堀川文化探索隊代表として長年にわたり堀川文化の地を調査・探索し数多の企画展を実現。著書に『浮世絵は愉しい』『伝えたい-ときめきを共有する教育』『堀川端ものがたりの散歩みち』『花の名古屋の碁盤割』『名古屋本町通りものがたり』など多数。

Webサイト:開府400年・名古屋の歴史と文化