旧三井銀行名古屋支店 - Network2010

補講 名古屋~栄

旧三井銀行名古屋支店

旧三井銀行名古屋支店(現三井住友銀行名古屋支店)旧三井銀行名古屋支店(現三井住友銀行名古屋支店)近代的なビルが建ち並ぶ広小路通りに、ひときわ異彩を放つビルがある。六本の古代ギリシャの趣きをたたえた円柱が並ぶ、旧三井銀行名古屋支店の建物だ。この建物は、地上二階でありながら、周囲の高層ビルに比していささかの遜色もなく、強い存在感をうちだしている。
中央の六本の円柱はイオニア式とよばれる様式でできている。イオニア式はギリシャのイオニアの地から起った様式で、柱に礎盤があり、曲線状の渦形を持つ柱頭に特色がある。両端には壁面を配し、ファサード(建物の正面)は花崗岩で仕上っている。優美で壮麗な感じをかもし出しているこのビルは、昭和十年(一九三五)に建てられたものだ。設計は曽禰中條建築事務所、施工は竹中工務店だ。

三井銀行が名古屋に進出してきたのは、為換座三井組時代の明治五年である。この時伝馬町に建てられた黒い土蔵造りの堅牢な建物は、宮戸松斎の『尾張名所図絵』の中にも描かれている。
伝馬町から広小路に三井銀行が移転してきたのは、大正四年六月である。
三井銀行名古屋支店長の矢田績は、新しい時代の銀行業務は広小路が最も適していると考え、しぶる東京本店を強引に説得し、移転を成功させた人物だ。大正四年、広小路に新しい建物がお目見えした時は、すでに彼は本店の調査役として名古屋を離れた後であった。いわば三井銀行支店の新築は、矢田績の名古屋への置き土産であった。この時完成したビルは建築費約二十五万円、近代フランス・ルネサンス式の豪壮なビルであった。

大正十一年、矢田績は三井を辞めて、無位無官の一介の老人として、名古屋へもどってきた。撞木町に居を構えた績のもとを多くの人々が訪れ、彼の話に耳を傾けた。
大正十四年、績は私財二十五万円で武平町に公衆図書館を設立した。さらに、二十万円で図書を追加し名古屋市に寄付する。
銀行の支店長として、多額の金を運用していた績は、金が生き物であることを身をもって知っていたであろう。金は人を助け、人を殺す。金のもっとも有効な使用法として、図書館を造り、蔵書とともに名古屋市に寄付する。績の志は、今も図書館に通う人々のなかに生きている。

イオニア式の特徴である曲線状の渦形を持つ柱頭イオニア式の特徴である曲線状の渦形を持つ柱頭入り口をまたいで左右3本ずつイオニア式の柱が並ぶ入り口をまたいで左右3本ずつイオニア式の柱が並ぶ歴史的遺産の建物が、一つ、二つと広小路から姿を消してゆくなかで、旧三井銀行名古屋支店は、昭和十年再建された当時のままの姿で、今も勇姿を誇っている。時代の趨勢のなか、二階建ての狭い建物では、銀行業務の拡大や変化に対応することはできなくなってきた。昭和四十年、銀行はこの建物をこわすことなく、背後に地上六階、地下二階の新館を増築することにより、この問題を解決した。
私財で図書館を開設することも、歴史的遺産を後世まで残すことも、経営を度外視した志の問題だ。績が広小路に移転させた銀行が今も残っているのは、績の志が後輩の銀行員のなかに生きているからであろう。高い見識によって残された旧三井銀行名古屋支店の建物は、誇らしげに往時のままの姿で建っている。

沢井鈴一氏による新連載「俗名でたどる名古屋の町」スタート!毎週金曜日、更新!!

沢井氏関連イベント情報

第31回堀川文化講座
「名古屋広小路ものがたり」

昔も今も変わらぬ名古屋の中心の通り、広小路は今年開通350年を迎えました。広小路をそぞろ歩きをし、屋台をひやかし、喫茶店で憩い、映画を楽しむ。
広ブラは人々の娯楽の中心でありました。
第31回堀川文化講座は、その広小路の350年の歩みを記した『名古屋広小路ものがたり』の刊行を記念する会です。
刊行を記念し、西川流の名手西川長秀、杵屋彌之友さんが祝いの踊りと長唄を披露してくださいます。

  • 1. 越後獅子
    • 踊り : 西川流 西川長秀
    • 長唄 : 杵屋彌之友社中
  • 2. 娘七種
    • 長唄 : 杵屋彌之友社中
  • 3. 講演「名古屋広小路ものがたり
    • 講師 : 沢井鈴一

◎日時:2010年3月28日(日) 13時~15時
◎会場:橘ホール (愛知産業大学付属工業高校)地下鉄名城線 東別院駅下車西へ 東別院西側
◎冊子代:500円
◎定員:250名
◎お問い合わせ:中区役所まちづくり推進室 TEL: 052-265-2228

沢井 鈴一(さわい すずいち)
沢井鈴一1940年 愛知県春日井市生まれ。明治大学文学部卒業後、市邨学園高等学校で国語科を教え、2000年3月に定年退職。名古屋市中区、北区等の生涯学習センター講師を務めるかたわら、堀川文化探索隊代表として長年にわたり堀川文化の地を調査・探索し数多の企画展を実現。著書に『浮世絵は愉しい』『伝えたい-ときめきを共有する教育』『堀川端ものがたりの散歩みち』『花の名古屋の碁盤割』『名古屋本町通りものがたり』など多数。

Webサイト:開府400年・名古屋の歴史と文化