沢井鈴一の「名古屋の町探索紀行」第2講 前津七不思議めぐり 第6回「卯木─宇津木橋」

卯木─宇津木橋

ものは百年使用していると魂がこもり、霊がつくという。樹木も、長寿の木には霊がこもっている。 樹霊にまつわる伝記は数多く残っている。秀吉が朝鮮征伐のために白山神社の神木を切らせたら、木から血がしたたり落ちてきて、切るのを中止したのは有名な話だ。

都市化がすすむにつれ、樹木のたたりなどは迷信であり、樹霊などという言葉は死語になってしまったのだろうか。心より金の時代には、信長必勝祈願の楠とも、弘法大師お手植えの楠とも言われている神木を守ることより、木を切り土地を金に替えることの方が魅力的なのであろうか。神木は、一度切ってしまったら甦らすことはできない。狭い土地の代用地はどこにでもあると思うが、どうであろうか。

宇津木橋の欄干には卯の花のレリーフが飾られている

宇津木橋の欄干には卯の花のレリーフが飾られている

前津の地にも樹齢を経た卯木の木があり、江戸の時代より多くの人々の崇拝をうけていた。 『前津旧事誌』には、この卯木のことを次のように記している。

卯津木は潅木にして高さ一丈計り。根部より細枝叢生して初夏の交白花を着く。里人の話に昔より大きくも小さくもならずといへど、余程年所をへたる老木也。いつの頃なりけん。此家の主あまりに小枝の繁茂せるよりこれを剪定せしに、その夜より俄然歯痛を起し、百方手当てをなせども効なし。よってさる易者に占はしめしに、こはさきに枝を切りたる卯津木の咎なりといふに、驚きて直ちに卯津木の周りに注連を張り、玉垣をめぐらし祭事を営みしに、忽ちにして齒の痛み治しけるより、以来里人の歯痛あるもの茲に詣りて治癒を祈願するに至る。本復の上は籾一升を供へ礼謝をなすといへり。

小枝を剪定しただけでも、たたりがあり、齒が痛くなる。この卯木の伝説に思いをめぐらすだけでも樹霊を感ずることができる。『金鱗九十九之塵』『尾張名陽図会』にも同じ話が載っている。 卯木の伝説は忘れ去られてしまったが、新堀川に架けられている「宇津木橋」の名前により、名木のあった地であることを知ることができる。

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