沢井鈴一の「名古屋の町探索紀行」第2講 前津七不思議めぐり 番外「一目連─鶴舞公園竜ケ池」

一目連─鶴舞公園竜ケ池

中部電力と神頼みという興味深い一文が『怪異の民俗学2 妖怪』のなかに載っている。

ここでおもしろいのは名古屋に本社がある中部電力である。その近代的な本社ビルの中核にあり、コンピューターで武装された中央給電指令所の一室に、神棚がしつらえられ、そこに一目連さんが祭ってある。近代技術、近代科学の粋をこらし、最新の電子技術を駆使しながらも、そこへあまりにも前近代的な、古めかしい雨乞いという民間信仰がはいりこんでいる。一見アナクロニズムもいいところであるが、日本人の多面性を表徴する傑作な一こまである。現在、雨の人工的コントロールは科学的、技術的に未解決なので、神頼みでも、やらないよりやった方がよいという発想法と解すべきなのであろう。(関口武 一目連のこと)

一目連とは、三重県、愛知県地方における竜巻の呼び名であり、また風の神様、雨の神様の呼び名にもなっている。三重県多度町の多度神宮の別宮一目連神社に祭られている神だ。

竜巻は、渦を巻き、万物を天上高く吹き上げてしまう。それは、通常の自然現象とは異なるものであり、荒ぶる神のなせるしわざに見えたであろう。竜が昇天する姿に、竜巻をなぞらえる。しかも、その竜は普通の竜ではない。片目の竜だ。一目連は、一目竜がなまって使われたことばだ。

濃尾平野は竜巻の起こりやすい地方だ。竜にまつわる伝説が数多く残っている。「一目連のこと」の中に、江戸時代の『摂陽奇観』に載っている話として、一目連が熱田の宮の鳥居を引き抜いたことを紹介している。

片目の竜は勢州桑名の一目連という山に住んでいるが、先年、この竜がおこって、尾州熱田にやって来て、大石をもって累卵をおしつぶしたように、簡単に民家数百軒を破壊した。そしてまた熱田明神の大鳥居を引抜いて、はるか遠方に吹きとばした。その鳥居は、太さが二かかえほどあり、地中へ六~七尺埋めてあり、しかも十文字に貫き通してあったので、何万人の人がかかっても動かしにくいものであった。それなのにこの始末で、何ともすさまじいものであった。

熱田神宮の鳥居を引き抜いた片目竜だけではない。多くの昇竜伝説が名古屋には残っている。名古屋に残っている代表的な竜の話は『堀川端 ものがたりの散歩みち』に紹介した尾頭橋から昇天した竜であろう。

昔、竜が住んでいたとされる鶴舞公園の竜ケ池

昔、竜が住んでいたとされる鶴舞公園の竜ケ池

前津地方にも竜の昇天する伝説が残っている。川島清堂『名古屋雑史其他』に載っている話だ。

鶴舞公園の中に竜ケ池がある。この池に昔、竜が住んでいたところから付けられた名前だ。池の竜は、大きな松の幹ほどもある竜だ。

前津から高辻、そして鳴海に抜ける街道には何本もの松が植えられていた。町名として残った七本松、松ケ枝のあたりは、特に大木の松が何本も植えられていた。前津の百姓が、ある夏の日、暑さをさけようとして倒れている松の木に腰かけた。松は枝がすっかり払われていた。 百姓は、煙草をとりだすと心地よげに吸い始めた。吸殻を落とすためにキセルを松の木でこんこんと叩いた。すると松の木がむずむずと動き始めた。又一服吸って煙草を松の木でたたくと木は動き出した。百姓は驚いて、木の端の方を見ると大きな光っているものが見える。大きな眼の玉であった。

松の木だと思って腰かけていたのは竜の胴体であり、木の皮と思っていたのは竜の鱗であった。竜が池から出てきて休んでいたのだ。 百姓は、恐くなり、あわてて家に逃げ帰った。二、三日後、一天にわかにかき曇り、かみなりが鳴り始め土砂降りとなった。大きな黒雲が池から舞い上っていった。 その黒雲の中に、赤い眼の玉を見たという人や鱗を見たという人もいた。竜が昇天していったのだ。

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