愛知万博と「環境アセスメント」
2005年に開催された愛知万博は、“自然の叡智”をテーマに長久手町、豊田市、瀬戸市といった名古屋東部丘陵地帯を会場に開催されました。都市に隣接した里山での開催とあって会場計画、施設の建設・運営、開催後の撤去まで、自然環境や近隣住民の生活環境への配慮がなされるよう、環境アセスメント(環境影響評価)が実施されました。
当初の会場計画が住宅団地の開発を利用したものだったことや、海上の森に見つかったオオタカの問題もあり、会場計画は二転三転し、アセスメントの過程が複雑でわかりにくいものとなりました。しかし、会場計画を詰める段階で地元関係者、自然保護団体、有識者、万博協会らによる検討会議が行われ、計画決定の場に市民が参加するなど実験的な取り組みが行われました。 環境影響評価の各段階で説明会や意見交換会を開催していく課程で、市民の側にも環境への関心が高まるだけでなく、合意形成の場に市民が参加することは当たり前なんだという意識が芽生えたことは社会にとって大きな変化です。
愛知万博での取り組みによって、その後の環境アセスメントのあり方へとつながる多くの経験と教訓が残されました。
環境アセスメント
開発事業の内容を決めるに当たって、それが環境にどのような影響を及ぼすかについて、事業者自らが調査・予測・評価を行い、その結果を公表して市民、地方公共団体などから意見を聴き、それらを踏まえて環境の保全の観点からよりよい事業計画を作り上げていこうという制度のこと。アセスメントとは「評価、査定」という意味。
駐車場「撤去のアセスメント」
愛知万博では、自家用車駐車場は立地選定段階から自然環境への影響を最低限に抑えるため、土地区画整理中の用地や耕作地、舗装地など植生の自然度の比較的低い区域が計画地として選定されました。 長久手駐車場は全域が私有地であり、博覧会後に元の農耕地に復元して返却するという前提で土地を借りていました。博覧会後、元の農耕地に復元するために以下の方法がとられました。
農地復元するためにとられた方法
事前に土地データを収集
- 駐車場建設工事着手前に農地の現況を測量し、解体工事の際に着手前の測量データに基づいて土地の復元が行われました。
- 農地として復元させるため、耕土の深さや硬さなどの物理的特性やpH値などの化学的な特性も事前に測定し、解体後データに基づいて土壌の復元が行われました。
耕土の保全
- 耕土の上に盛土して舗装を行う場合、耕土の上に非透水性のシートを敷き、耕土への有害物質の浸透や異物の混入を防止しました。
- 耕土を一筆(農道や水路等によって区画された耕地のこと)ごとブルーシートで包んで保管し、解体後もとの土地に耕土を戻して復元されました。
施設や展示、イベントの内容もさることながら、「環境万博」の理念を最も体現していたのは、環境アセスメントへの取り組みであったのかもしれません。